捕獲後公開死刑。


今日はお昼からバイト。くどいようだが私は受験生。減らしてもらっているはずなのに今日で三日連続出勤だ。おかしい。
いつのまにか今年のケーキ売りの少女(イブの日に店頭でサンタの格好する役。五時間ケーキを売り続けるという過酷な役だ)が私に決定し、誰も反対しなかったこと(むしろ見たいと言われた)を疑問に思いつつ、私は夕食の買い出しに行こうと店を出た。と。


「おつかれ〜」


前方から声が。見るとそこには兄貴のお友達である店の常連さんが。そういえばさっき店に居た気がする。


「あ、お疲れ様です〜」


親しいわけでもないので、私はそうにこやかに告げ、スーパーへの道へと歩を進めようとした。カゴメのリゾットを買わねば。

が。


「よし、じゃあ帰ろうぜ」


差し出されるメット。もうスタンバってるその人。寒さに凍える私。
断ろうと必死になる私に放たれる"早くしろよ"オーラ。


「……はい」


三秒後、閑静な住宅街に悲鳴が木霊した。



寝耳に養命酒

半ば拉致られた先は当たり前だが自宅で。以前にも乗せていただいたことがあるのだが、何分自分免許持ってないのでバイクで走るのは恐ろしく、絶対に向かい風の所為だけじゃない涙が流れた。死ぬ。
ありがとうございました、とそこで別れるはずだったのだが、以前に私の誕生日(一月だ)を祝ってくれるという約束を覚えていたらしく、その人は「これから兄貴と一緒に飯食おうぜ」と私に告げた。

私は酷く狼狽した。

彼(Eさん)は私の直接の知り合いではない。Eさんは双子で、かたわれの方が私の中学時代の部活のOBなので百歩譲ってそちらの方とは知り合いと言えたとしても、部活も違ければ学年も六つ上のEさんとはぶっちゃけなんら接点がないのだ。兄貴とも三つ離れているので、どうやって二人が親しくなったのかは謎だ。
そんな私にとっては『兄貴の知り合い』であるEさんと個人的に付き合うということがすごく抵抗を感じたのだ。だってそうでしょ。いきなり兄弟の友達と一緒に遊ぼうって言われても緊張するでしょ。
断ることもできず、私はEさんと一緒に家へ。玄関から兄に叫ぶ。「Eさんが来てるよ〜!!」
すると。

「えっ、えっ、マジで?!なんで、えっえっ?!」

と、狼狽しきった兄貴が普段の酷い格好で(本人の名誉の為ふせさせていただきます)ガラリと障子の奥から現れた。


「何、Eさんがいるってどういうこ」
「おーす。って、お前酷い格好だな」
「…なっ!Eさん!!」


まさか中にまで入ってきているとは思わなかったのか、兄は挙動不審な姿だ。


「おいこれから飯食いに行くぞ」
「えっ、今からっすか!?」
「俺車持ってくるからさぁ。七時に迎えにくっから」


そう言って不敵な笑みを浮かべながらEさんは去っていった。


「ね、ねぇ本当に行くの…?」
「さぁ…。行くんでしょ」


後には唖然と見送るバカ兄妹が残された。

ネタ一つでお腹一杯。

そんなこんなで我々はEさんの車に乗せられて親横浜のとあるイタリアンレストランにやってきた。Eさんの行きつけらしいその店は、カップルが大勢いる素敵な店だった。ドレスアップしている方々を見ながらジーパンの私とパーカーの兄はカタカタと震えていた。
食事は終始和やかだった。料理は美味しかったし、プレゼント(一応そうなんだろうな。何にかはわからんが)紅茶も買ってもらい、その上お料理全額ご馳走になってしまった。しゃ、社会人ってすごい。
あーお腹いっぱい。美味しかったなぁ。あ、Eさんご馳走サマでした。あー帰ったら日記書かなきゃなぁためてるし。勉強も少しはやらなきゃね。ってアレ?Eさんどこ行くの?えっ、歌いにいく?これから?え、いや、もうぶっちゃけ仕事後で眠いんですけど。むしろあなた私達のご飯食べに行く為に仕事の一つサボったんじゃ…って待って!どこ行くんすか!も、もう帰りたいっす!!
などと心の叫びが届くはずもなく、終わらない夜の道を一台の車が駆け抜けて行った。


こういう理由。

二十分後、私はとあるカラオケ屋でメリッサを歌っていた。
さすがポルノ。やっぱりポルノグラフィティはいいね。大好きだ。などと言ってる場合ではない。
なんで私はここにいるんだろう。友達とだったら食事後にカラオケぐらいするが、Eさんは私にとってお客さんなんだってば。なんでフリータイムで確実に日付け越えするカラオケ大会開いてるんだろう。もう呆然とするしかない。
カラオケは好きだ。友達となら採点ありでバンバン歌いまくって競うし、盛り上がる。何より恥ずかしがらずになんでも歌えるのだ。
しかしながらEさんという、知り合いと言ってもいいのかわからぬほど薄い縁の方の前ではカニの拳骨くらい有り得ない無理な話(なんかの歌)なのだ。
そうと知っているのかどうなのか、二人はバンバン歌い、私にも歌えと言うし、もっとノレと言ってくる。そんなこと言っても恥ずかしいもんは恥ずかしいし、第一私は皆が知っている様なメジャーな歌はあんまり歌えない。盛り上がり重視のこの場では知らない歌を歌っちゃいけないんだろうし(友達とならお互いしか知らない歌でも平気で歌う。皆)、盛り上がれって言われても、ぶっちゃけ知らない曲なので合いの手も入れられない。そして多分気付いていないと思うが、私的にあれはかなりノッていた方だ。カラオケは喋りながら歌って飲んで、という感じしか体験していないので、盛り上がれと言われてもどうすればいいのかわからないのであった。
それでも頑張って歌っていると、元々風邪気味だった所為もあり、早々に喉をやられた。腹から声を出すのではなく、喉から出すので痛めるのだ。
休憩と称してウーロン茶飲みながら聴いていると、Eさんがこれ歌えるだろう、とバンバン私用に入れてきた。いきなり始まる曲。知らないフレーズ。差し出されるマイク。
いや、ね。気をつかってくれたのかな、って思います。本当は気を使わせちゃいけないんだろうけどさ。でもね、ちゃんとEさんには言ったはずなんですよ。普通に皆知ってる曲でも私は知らない、って。なのにそんなに入れられてもわかんないっすよ。お願いだから兄貴よ、あんた知ってるんなら歌ってくれよ。わかんない歌やらされて泣きそうだよ。
キレて『わかないっすよ!』と叫び、結局最後は自分が入れたゆずの『恋の歌謡日』を歌い、そのプロモを真剣に見ながら宴は終了した。


揺れるのは白い羽じゃない。

Eさんのワイルドな運転で、我々は再び自宅へと帰ってきた。帰りは世間の厳しさとやらを少々語っていただいたりして、ためになった。『また行こうぜ』という約束を交わし、Eさんと別れた。


「遅くなったね」
「そうだね」
「…疲れたね」
「…そうだね」


日付けはすでに変わっている。仕事した後のカラオケは辛い。体力の無い私はよほどのことがない限りバイトの日には出かけない。疲れた。本当に疲れたよ。


今日の反省(後悔)。

・クリームブリュレを頼むつもりだったのに、何故だかパンナコッタを注文してしまった。

・一番奥の席に座ってしまったので、皿わけも何もかも全部やってもらってしまった。申し訳ない。

・知らない歌多すぎ。もっと勉強しましょう。

・テンション低い(でも私には精一杯)。ライブやコンサートの時もあんくらいのテンションなので、もう改善できないかもしれない。

・難聴気味で、カラオケ中話し掛けられた中の50%くらいはロクに聞き取れてなく頷いていた。


こんなものか。いや、楽しかったですよ。機会があればまた是非行きたいし。ただ普段カラオケは二人で行くのが基本の歌競いが中心なんで、三人以上の盛り上がり重視は苦手なんで、できれば今度は遠慮したいっす…。


疲れた。