"好き"がわからないというのは、普通じゃないですか?
まぁそんなこんなでまたもや軽率な行動をとった私ですが、何も考えずにそういう行動をとったわけではない、ということを言いたい。
最初ちーちゃんのご両親の部屋で、二つくっついたベットで二人で寝てた時、ダイが『俺達は試されてるんだろうな』と言った。
あまり意味がわからなかった。というか、"何を"試されてるのがか。酔ったらヤッちゃうことをか、友達の家でそういうことをするのかか。
手繋いで二人で寄り添って。『本当は多分いけないんだろうな』とは思った。付き合ってもなくて、ただの友達で、でも一緒にこうやって寝て。『人肌が好き』だからって男の子とくつくのなんか。本当はいけないことなんだって。
結局その後色々あってちーちゃんに叱られ、また色々あって廊下で毛布かぶりながらダイと二人で話した。『私は"好き"の意味がわからない』ってこととかを。
"好き"の意味がわからない。どっからどこまでが友達と恋愛の境界線なのかとか、どういう気持ちが好きという感情なのか。普通の人はきっと当たり前の様にわかるそのことが、私にはわからないのだ。
私がダイにくっついたりするのは、私がダイのことを好きだから。けどそれが友達としてなのか男としてなのかが自分でわからない。だからこの気持ちを確かめたかったのだ。
「自分で自分の気持ちがわからない。なんて言うか…私の"好き"は"恋愛"も"友情"も大差がないの。ただ"好き"なだけ。傍にいたいと思うし、傍にいてほしいとも思う。けどそれがどっちの感情からくるものなのかがわからない。だって、私は皆が好きだから」
自分でも悩んだりした。"好き"の意味がわからないなんてなんで?って。でも本当にわからないんだ。好きな人と一緒にいたいからする行動が、相手が異性だということでダメだと言われるのも。なんでわからないんだろ、って。
「お前、俺とさっき本当にヤってたらどうしてたんだよ?俺がマジでせまってたら?」
「…わかんないよ。ダイは好きだし、一緒にいたいって思うし、くっついていたいって思う。けど正直、ダイ以外の子でもそう思ってそういうことできる人はいるの。だからこの感情が恋愛なのか友情なのかわからない」
「"好き"がわからない?」
「そう。支えになりたい、支えになってほしい、そう思うのに私の気持ちは一人にいかない。だからわからない。でもただ言えるのは……凄く、寂しい」
好きの意味をわからない人間を、本当に理解してその上で好きだと言ってくれる人なんかいなかった。
傍にいてほしい、抱きしめてほしい、私がここにいて誰かに必要とされていると感じる温もりが欲しい。そんなことはわかっているけど、だからってそれを自分が恋愛感情を抱いているのかどうかもわからないのに行動にうつすのはいけないことなんだってことも。だから私はいつまでも確かめられず、誰が好きなのかもわからない。
ただ、誰かに必要とされたかった。
私はここにいていいんだ、って。私は存在していい人間なんだ、って。誰かに言葉じゃなく心で証明してほしかった。
「傍にいてほしいんだ。私の事が好きだと言ってくれる人に。誰かに必要とされたら、私でも誰かを求めることをしていいんだって思えたら。きっと…私が本当に好きなのは、恋愛として誰を見てるのか、わかる気がするんだけどね」
まぁなかなかね、と笑う私の手をダイは握った。
「俺もわからないよ。遊びなんて正直今まで何度もやってきたけど、本気の恋愛がどんなものか、ってことを。けどいつか気付けると思う。俺も、お前も、そのことに」
毛布にくるまって、狭い廊下で二人で寄り添って。ダイはほぼ私に抱きつく形だったし、多分皆にこの場を見られたらマジで付き合ってるとかそう思われても仕方ないことしてて。でも私達にはそんな甘い空気は流れなかった。なんていうんだろ、欲情とかそういう生々しいものじゃなくて、傍にいて安心できるっていうか、"一緒にいるのは当たり前"みたいな穏やかな空気だった。お兄ちゃんといるような、弟といるような、息子といるような、恋人といるような。そんな空気。性欲とかナシに、一緒にいて安らげた。ダイの事が本当に好きだな、って思うくらいに。どちらの意味でなのかはわからなかったけど。
「お前も難しいな。けどこれだけは俺は言える。
面白くて、人の事よく考えてて、凄くお前はイイ奴だ」
その時は、もしかしたらこの感情は、"恋愛"なんじゃないかって思った。
「ホントに?」
「あぁ。一緒にいて面白いと思うし、ちゃんとした自分の考えも持ってるしな。傍にいたい、傍にいて楽しい、そんな風に思うことが恋愛の始まりなんだって思えたら、お前は大丈夫。自分の気持ちに気付けると思うよ」
「マジら?」
「ゴジラ」
「…アホ」
四時間も冷たい廊下に寝ながら話して。ほんの少しだけ、私はダイのことを恋愛として好きなんじゃないかと思ったりもした。けど私の胸に頭預けてくるダイに対して弟の様に感じたのは、恋愛じゃない証拠なんじゃないかとも思った。
まだ、わからない。恋愛の意味。私の気持ち。
ただ、ダイの傍にいる時は、私はとても安らげ穏やかで、ずっとこの時間が続けばいいと思った。
それだけは真実。